
ロジャーズは、ネガティブな感情を重視します。
ネガティブな訴えを十分にしてもらう。その結果、前向きな言葉が少しずつ聞かれるようになる。そのことをロジャーズは発見したからです。そのためには、ネガティブな話をとことん聞く必要があります。いえ、とことん「聞ける」必要があります。
しかし、一般の人たちには、なかなか難しいことです。
誰かの批判であったり、愚痴や弱音であったり、不満や怒りであったり、そうしたネガティブな話をずっと聞く。
するとたいてい、こちらにはこんな思いや感情が浮かんでしまいがちです。
「そんなことばかり言っているからダメなんだ」
「ああ・・そこが問題なんだ」
「この後、どう言ってあげたらいいんだ・・」
大抵はそういう思いや感情が浮かんできますし、その時点で相手の話をしっかりとは聞けなくなります。
そしてもうそれ以上その話を聞きたくないという感情になり、やがて「助言」「解釈」「激励」「説得」等をしたい衝動に駆られます。こう動きたくなる原因の一つは、それ以上ネガティブな話を聞くのが怖くなるからです。
このまま聞いていったら際限がなくなるのではないか?
このまま聞いていても、問題解決から遠ざかるだけなのではないか?
こういう不安、怖さが出てきて、つい助言などで話を終わりにしたくなるのです。
ここまでくると、もう完全にその話、聞けなくなってますよね。
でも、カウンセラーとしてカウンセリングという場では、否定的な話をどこまでも聞き続けられることが求められます。「助言」「解釈」「激励」「説得」などは一切せずに、とにかくひたすら「聞く」ということが求められます。
ではいったいどうすれば「どこまでも聞く」ということができるのか?
答えはこうです。クライエントの話に「強い興味・関心」をもつことです。
そしてその時のクライエントの気持ちの「理解」に努めることです。そうすると、
「そんなことばかり言っているからダメなんだ」
「ああ・・そこが問題なんだ」
「この後、どう言ってあげたらいいんだ・・」というような"思い"は出てきません。
出てきませんから助言をしたくなる衝動にも駆られません。
このまま話をもっと聞いていたいという気持ちで聞けるのです。
クライエントの話に強い興味・関心を持てるようになると、
「理解したい」という思いも強くなり、むしろこう思うようになります。
「クライエントはどうしてそういう思いになるのだろう」
「なぜここまで否定的にしか物事を観れなくなっているのだろう」
ポイントはクライエントの話の「内容」ばかり追いかけるのではなく、
目の前にいるクライエントに「一人の人間として」の関心を寄せること。
クライエントの話の内容だけでなく、それを言いたくなる気持ち、その話をすることの意味
背景などにも関心を寄せる。そうしたクライエントの全体を理解しようとすることです。
確かにクライエントを全体的に、それも深く理解するのは簡単ではありません。
ですが理解できなくても「理解したい」という思いを強くもつ。
だから「どこまでも聞ける」ようになっていくわけです。
こうした姿勢をいつも崩さずに聞き続けられれば、やがてクライエントはこんな思いに包まれるはずです。
「今まで、この話をここまで(関心をもって)聞いてくれる人はいなかった」
「自分の気持ちをこれだけ深く(あたたかく)理解されたことはない」
同時にクライエントはこんなことにも気づきます。
「ああ、自分はこんなに悲しいと思っていたんだ・・・」
「私はここまで傷ついていたんだな・・・」
「そうか・・・本当にこの事がショックだったんだな・・・」
そう、理解されることによってクライエントは、自分自身をも改めて理解していくことになるのです。
「理解された」というありがたみによって暖かい気持ちになり、
「気づく」ことによって自分をより理解できるようになる。
この繰り返しを経験していくことで、クライエントは一歩、また一歩と前進する力を取り戻していくわけです。
訓練を積めば、ネガティブな話をどこまででも聞けるようになります。
私自身、どこまででも、とことん聞くことができます。
そのための訓練を積んできましたし、臨床の経験も積んできたからです。
聞き続けることで、クライエントが変わっていくという経験を積んできたからです。
もちろん「ただ漠然と聞く」聞き方ではないことは、言うまでもありません。