自分を責める悪循環のスイッチ

職場で比較的気の強い人、もしくは気が短い人がいたとします。

 

その人がある時、デスクの引き出しを強めに「バン!」と締めたとします。

 

すると「自分がこの人を何か怒らせてしまったのだろうか?」と思ってしまいます。

 

デスクの引き出しだけではありません。

 

書類をバンと机に置いたとき、ドアをバタンと強めに閉めたとき。

 

電話の受話器をガチャンと置いたとき、PCのキーボードを強く叩いているとき。

 

そんな時、自分に自信がない人の中にはいつも「私がこの人を怒らせたのではないか?」と瞬時に思ってしまう人がいます。そこには怒らせてしまったという確かな根拠は何もありません。根拠も確証も全くないのに「自分が・・」とすぐ思ってしまう。そこには、強い自己否定感があります。そう、自己否定観のある人は、何かあるとすぐに自分を責めます。自分はダメな人間だと自分で思っているため、「自分がダメな人間」に合致しそうなことを片っ端からむずびつけてしまいます。自分が原因で世の中の悪いことが起こっているのではないか?大袈裟ではなく、そういう思いグセがあります。では、自分が本当に悪い出来事の引き金を引いているのか?

 

実は、そういう検証は一切しないのです。検証するわけでもないし、何の根拠も確証もないのに、きっと自分が原因なんだと即座に思ってしまうのです。そして、そこから先は思考停止状態になり、ひたすら自分を責めます。

 

先の例でいうと

「デスクの引き出しを強く閉めたのは、きっと私が何かあの人を怒らせるようなことをしたからだ」としか思えない。

 

本当に自分が怒らせたのかとか、単に彼の虫の居所が悪いだけなのかとか、他に何か不機嫌になるようなことがあったのかとか。あるいは、忙しくて余裕がなく、ついつい引き出しを強めに閉めてしまったのかとか、こうした選択肢を一つ一つ検討してさらに観察を重ねるということがないのです。思考停止状態になり、それ以上検討も観察もせず、ただただ自分を責める悪循環のスイッチが入ってしまいます。

 

「こんなふうにこの人を怒らせる自分はやっぱりだめな人間なんだ」

「そういえばあの時も自分はダメ出しをされた」

「自分は何をやってもだめな人間なんだ」

「きっと職場の人たちは皆、自分の事をだめな人間だと言うレッテルを貼っているんだ」

「こんな自分がこの職場にいて皆に迷惑をかけるだけだ」

「小さい頃から自分に自信がなく自分は生きている価値がないとずっと思ってきた」

「やっぱり自分はここにいる価値も、生きていく価値もない人間なんだ」

 

このような悪循環のスパイラルのスイッチが入ってしまい、一瞬にして自分を連続的に否定し、自分を責め続けるのです。これではより自己否定感が増すだけであり、正直、気分もドンドン悪くなるし、何もかもに自信がもてなくなるでしょう。これは現実的な思考が停止状態になっているんです。別な言い方をすると、現実検討が出来なくなっている状態です。現実検討というのは、先にあげた可能性、仮説を選択肢として一つひとつ検討していくことです。

 

・自分が怒らせたのか

・自分以外の誰かや何かが原因で不機嫌なのか

・単に彼の虫の居所が悪いだけなのか

・他に何か不機嫌になるようなことがあったのか

・忙しくて余裕がなく、ついつい引き出しを強めに閉めてしまったのか

・もともと勢いよく動くクセがある人なのか

・それとも気合の現れがそうした行動として現われるのか

 

という可能性、仮説を立て、その中のどれかに該当するのか?あるいはそれ以外の可能性があるのか?それを見極めようと観察と分析をしてみる。そういう思考が働かなくなって、ただただ「自分がどうせダメなんだ」と感情的な状態になってしまっているわけです。なぜそういう思考停止状態になるかというと、根っこに強い自己否定感があるからです。つまり「自分はダメな人間なんだ」からしか、ものを観たり捉えたりすることができなくなっているんです。根本的にいうと、この自己否定観を払拭すれば、思考停止を回避できます。

 

しかし、自己否定観を払拭するのは、時間がかかります。そこで、思考停止の部分にフォーカスして、現実検討を意識的に行ってみます。先ず、不安や辛さを感じたり、なにかモヤモヤしている時。その時こそ、思考停止の状態ではないかとチェック(意識)してみます。そして「自分のせいだ」という単一の捉え方以外の選択肢を想定してみます。この部分で思考を働かせるわけです。いくつか可能性や仮説が立てば、あとはそれを一つひとつ確かめていくだけです。ここで重要なのは、自分が思考停止状態だということに気づくことです。思考停止で感情的になっているということを自覚するのです。この自覚ができるようになると、自分の思いグセを変えられます。

 

一人で難しければ、カウンセリングを受けることをお勧めします。

 

仮説の立て方、状況把握の仕方、思考停止の自覚の仕方など、体験的に理解していけます。

 一人で行き詰るより、早くコツを掴めるはずです。いずれにしても、思考停止になっている場合、よほど意識的にチェックしないとそのことには気づけないものです。自分の思考の動きや自分の感情の移り変わりがリアルタイムで自覚できる。すると、それだけ悩んだり苦しんだりすることが減り、とても楽に生きていけるようになります。